完了助動詞の選択:中古日本語のbe動詞文

平田 一郎(専修大学)

西欧諸語の中には、完了の助動詞として英語のhaveあたる単語を使う場合とbeにあたる単語を使う場合とで使い分けがある言語があることが知られている(フランス語、イタリア語、オランダ語、ドイツ語など)。日本語でも、中古前後の時代に「つ」と「ぬ」による完了の助動詞の使い分けがあったことが知られ、盛んに議論されてきた。鷲尾 (2002)、Washio (2004)は、上代日本語の資料に基づきながら、西欧諸語の完了助動詞の使い分けと「つ」と「ぬ」の使い分けが基本的に同じ現象であることを示した。本発表では、主に中古日本語の助動詞の使い分けを資料に、両者の間には1つ大きな違いがあることを指摘する。西欧諸語では、英語のbe動詞にあたる動詞の完了にはbe系の動詞が用いられるのに対し、中古日本語では、have系の動詞がbe動詞相当の述語の完了に用いられる。本発表では、こうした中古日本語の助動詞の使い分けが、語彙概念構造に基づくことにより最も適切に説明されると主張する。