デンマーク語の母音量と音節構造

三村 竜之 (東京大学大学院)

 従来デンマーク語では、lam [lám'] 「子羊」― larm [lá:'m] 「騒音」が示すように母音量が弁別的であるとされてきたが、一方で、pakke [phákə] 「荷造りする」を*parke ( [phá:kə]?) と綴るスペルミスが報告されており、母音量の弁別性を疑問視させる。

 本発表では、まず、形態音韻論的な強勢交替に伴う母音量の交替現象から、長母音を短母音音素に帰納し得る可能性を指摘する。続いて、デンマーク語の音節を中核部と付属部という独自の概念で分析することで、強勢音節に長さの点で制約が存在することを明らかにし、短母音音素が長音化する条件を導く。デンマーク語では、長母音は強勢音節の長さを充足すべく短母音音素が長音化されたものであり、故に母音量の対立は無いと結論付ける。