本発表では,現代日本語の「そのもの」の用法とその意味について考察を行った。
まず,「そのもの」には,再帰的解釈を伴う「名詞的用法」(「XそのものがP」)と,比喩的解釈を伴う「述語的用法」(「XはYそのものだ」)があり,これらの用法が,前接要素の意味的特徴(指示的か叙述(非指示)的か)と相関することを指摘した。
さらに,名詞的用法が,「前接する要素Xについて,別の要素Yとの関係の下に叙述を行い,XがYよりも上位の,基盤となる概念であることを述べる」ものであり,述語的用法が,「前接する表現Yが持つ特徴に基づいてXの叙述を行い,YがXを叙述する上で最も妥当な表現であることを述べる」ものであることを示した。
最後に,これらの二用法に共通する,「範列的関係を導入し,前接要素がその中で最も上位のものであることを述べる」点を,「そのもの」の意味として抽出した。