アイヌ語には、動詞の結合価を増加するものとしてko-, e-, o-という充当接頭辞があり、何れもその動詞の取り得る目的語の数を一個増やす統語的機能を持っている。意味上、これらは、動作主を除く(つまり使役の意味を除く)様々な格関係を表すが、その具体的な意味は意味的役割構造を決定する基礎動詞の意味によって違ってくる。
充当接頭辞が動詞の結合価を減少するu-相互接頭辞と同じ動詞の中に共起することが多いのは一般に知られているが、そこで実際にどんな派生プロセスが行われているかは今まであまり研究されていなかった。充当動詞から派生された相互動詞に現れるu-ko-(またu-e-)と、直接に基礎動詞から派生された共同動詞に現れるuko-(またue-)は形態上同じものに見えるが、それぞれの起源が異なり、同音異義的な区別を行う必要がある。そのような問題を中心に、充当接頭辞に関する形態的、意味的な問題を考察した。