本研究は、現代語の従属節を扱った、いわゆる「南モデル」と日本語学及び生成文法の理論を用いて「万葉集」係助詞の附加位置を検証する。南モデルで観察された現代日本語の従属節の意味、構文の特徴には、英語やスウェーデン語でも確認されている事項もある。本研究は、それらの特徴は日本語に通時的に区別されていたことと仮定し、「万葉集」に適応する。そうすると、「や」「こそ」には2つ(提題と強調)の用法があることになる。そこで、それぞれの用法には構文的に異なる附加位置が必要であることを提案する。しかし、「や」の強調用法と、「か」「そ」は附加位置の特定ができないので、従来主張されてきた、「XP-や」「XP-か」「XP-そ」をFocus Phrase (FocP)に想定したり、FocPに移動させる説には疑問を呈する結果となる。