文理解は時間軸に沿って即時的に展開されると考えられる。しかし、Frazier et al. は、英語の空主語文処理の実験において、解析器が空主語の先行詞を決定する際、動詞の語彙情報が一時的に無視され、距離的に最も近い先行詞が優先された後、動詞の情報が利用されると主張した。もしこれが正しければ、言語処理の即時性に再考を迫ることになる。また、坂本などで従来行われてきた主要部後置型言語の日本語空主語文処理の実験では、動詞は節の最後に入力されるため、動詞の情報が一時的に無視されるか、それとも即時的に適用されるかを検証できない。そこで、英語と同じく、主節動詞が補文の空主語の前に現れ、かつ“ba”や“dui”のような語彙を用いて、日本語と同じく、目的語が文頭に移動できる中国語の空主語文を用いた実験を行った。その結果、動詞情報は即時的に用いられるということが示された。