本発表では、ヤクート語における副動詞形に人称接辞がつくという特徴を扱う。副動詞形とは主に従属節を作る役割を担う動詞の一形式であるが、ヤクート語においては主語と一致する人称接辞が付き得るのに対し、他のチュルク諸語においては人称接辞が付くことは許されない。この点に関しては従来、ヤクート語と最も接触の深いエヴェンキ語からの借用であると述べられてきた。
しかし本発表では、このヤクート語の当該特徴が、次の 2点からエヴェンキ語のみならずモンゴル諸語の影響とも深く関わっている可能性があることを示す。第一は、ヤクート語はモンゴル諸語とも接触の歴史が認められることである。そして第二は、副動詞形に関する類型論的考察から、ツングース諸語のみならずモンゴル諸語においても本来的に人称接辞が付き得る副動詞形が存在したと考えられ、両言語と長く接触して来たヤクート語はその影響を受けた可能性が十分に考えられることである。