移動様態動詞と共起する再帰代名詞と自他交替

平松 佳二郎 (大阪大学大学院)

 一般に英語の移動様態動詞の下位クラスは目的語を取れないが、中には着点を表わす前置詞句の付加により、目的語の位置に再帰代名詞を取れる場合がある。再帰代名詞のない自動詞文とは異なり、他動詞文では「ある方向への移動を引き起こされる」という使役的な意味を持つことが観察される。なぜ再帰代名詞の付加により、このような意味の変化が起きるのか。そしてこの再帰代名詞の機能はどのようなものか。本発表では、再帰代名詞が生起する他動詞文と自動詞文に観察される特徴が使役起動交替や勧誘行為交替に共通することに着目し、これらの交替との対照を通して、問題の再帰代名詞の正体を明らかにする。具体的には、このクラスの動詞は着点を表わす前置詞句の付加により、項構造を使役的なもの、つまり使役者と被使役者項を取ることができる意味構造へと変化させる。問題の再帰代名詞は被使役者であり、主体とは分離した客体化された自己を表わす。