島原方言における音調の音声的実現と基底表示

松浦 年男 (九州大学大学院)

 本発表では島原方言の音調について,音響音声学的な性質を記述し,音調の対立が音韻論的にはどのような違いであるかを考察した.

 音響音声学的な性質については (1) A 型の単語の F0 のピークは B 型の単語の F0 のピークよりも高く実現し,(2) 句単位ではダウンステップが観察される,という 2 点が明らかになった.この結果から島原方言において A 型と B 型では高いピッチに指定されるトーンメロディーは異なっている必要があることを主張した.

 次に複合語と外来語における音調の振る舞いを観察した.複合語は前部要素が 3 モーラ以上になると音調が中和し B 型で実現し,外来語は 4 モーラ以下ならば A 型が,5 モーラ以上になると B 型が優勢になる.本発表では長い外来語は擬似複合語であると分析し,また A 型と B 型の音調の違いがアクセントの有無であると分析することによって,複合語と外来語の音調の振る舞いを同時に説明できることを示した.