本発表では,日本語を母語とする子供が取りたて詞「さえ」をいかに解釈するのかについて,実験を行い調査した.その結果,日本語児は「さえ」がもつとされる含意 existential implicature や scalar implicature (Karttunen and Peters 1979),に敏感ではないことを明らかにした.この点は,existential implicature を必要条件とする「まで」を用いた実験でも同様であった.また,同じ被験児を対象に,「どの…も」の解釈に関する実験も行った.その結果,本研究の「さえ」についての結果は,Philip (1995)で論じられている,子供の quantifier spreading の現象とは独立したものであることを示した.
さらに、子供の「誤答」を分析することにより、「さえ」のもつ真偽値や含意の影響を考察した。そのうえで,pragmatics の発達に言及し,本研究における観察を,焦点が当てられる個とその個に対比される集合との点から論じた.