複雑事象名詞句における尊敬化

Ivana Adrian (広島大学大学院)
酒井弘 (広島大学)

 敬語文においては、「山田先生が私たちをお見送りになった/*私たちが山田先生をお見送りになった」「*山田先生が私たちをお見送りした/私たちが山田先生をお見送りした」のように、述語が主語尊敬(尊敬語)か目的語尊敬(謙譲語)かに応じて尊敬対象となる名詞句が制限される。一方敬語名詞句においては、出来事を表す複雑事象名詞句(Grimshaw, 1990)であっても、「私たちの山田先生のお見送り/山田先生の私たちのお見送り」のように、尊敬対象の制限が見られない。本発表では、名詞主要部は内項に相当する名詞句のみに項として意味役割を与え、動作主として解釈される名詞句は実は付加詞だと考えることで、敬語文と敬語名詞句の相違が説明できることを示した。これによって、著者達が一連の研究で提案してきた、敬語現象を接辞「お~」と敬意対象名詞句との間の一致として捉える分析が、名詞句に対しても拡張され得ることがわかった。