自他交替, すなわち, 語基を共有する自動詞と他動詞の形態的・統語的関係は, 多くの言語学者の興味をひく現象である. この発表では, フォーカス・システム, すなわち, 絶対格名詞句(主要文法項)と動詞述語との意味関係を標示する動詞形態論を持つタガログ語の自他交替について検討し, その観点からフォーカス・システムを見直す.
具体的には以下の3点を主張する: 第一に, フォーカス・システムがタガログ語の自他交替を担っており, 生産的な両極派生を可能にしていること, 第二に, タガログ語の自他交替にはS=AパターンとS=Oパターンの二種類があること, 第三に, フォーカス・システムの機能が自他交替のパターンによって異なることである. 意味役割と文法関係のリンキングのスイッチ, 文のtelicityの変更, 被動者の定性標示などの機能はS=Aパターンにしかない.