スンバワ語の指示詞

塩原 朝子 (東京外国語大学 アジア・アフリカ言語文化研究所)

スンバワ語の指示詞には次の5つがある。

ta 「近称」, nan 「中称」「定」, ana 「遠称」, tó’ 「場面指示」,  「不特定」

このうち、スンバワ語に特徴的な要素として、tó’「場面指示」が挙げられる。tó’の機能には、(i)発話場面に存在する事物の標示(この場合、tó’はほとんど常に指差しを伴って発話される)、(ii) 発話時点(「今」)の標示、の二つがある。また、tó’は他の指示詞が持つ文脈指示の機能をもたない。これらのことから、tó’の一次的機能は、発話時点、地点を含む場面を指すこと、つまり「場面指示」そのものであると考えられる。多くの言語の指示詞が共通して持つ機能として、(i)基準点(話し手や聞き手)からの距離を示す機能、(ii)指示物と外界との結びつきを示し、話者の関心を引く機能、の二つが指摘されているが、tó’はこのうち(ii)の機能のみを持つ要素であると考えられる。