イタリア語やスペイン語でNegative Concord Items (NCI)と呼ばれる項目があり、本来、文否定力を持つとされる。Watanabe 2004は、日本語の「だれも/なにも」はそれと同タイプのNCIであり、それ自体否定力を持ちLFにおいても文否定要素として働くと主張する。
本研究では、その分析に反して、「だれも/なにも」は否定力を持たないことを示す。「だれも/なにも」は格標示された項名詞句と構成素を成し、その項名詞句はLFでNegにc-統御されてはならない。その根拠は「-しか」句との相互作用である。「だれも/なにも」を含む項名詞句全体が全称量化表現であり、全称否定を導くためにはLFでNegをc-統御しなければならない。この主張はまた、「だれも/なにも」は否定極性項目でありNegによるc-統御がLFの派生における必要条件だとする仮定(Kato 1994, 2002等)に反するものでもある。