本発表の目的は，カドリ語（ボルネオ島のオーストロネシア系言語）における語中の閉鎖音 /p, b, t, d, k, g/ と破擦音 /c, j/（まとめて「破裂音」と呼ぶ），およびそれを含む子音連続がなす対立について記述することである．先行研究は，語中の，無声破裂音 /-T-/，有声破裂音 /-D-/，h音＋無声破裂音 /-hT-/，鼻音＋有声破裂音 /-ND-/ の例示にとどまっていた．本発表は，これらの対立の例証に加え，/-T-/ vs. /-hT-/ が /-D-/ vs. /-ND-/ よりも高い機能負担量をもって弁別されていることを示唆する．さらに、これらの使用頻度とふるまいが機能負担量と相関していることを指摘する．また，波形/振幅/周波数成分などの点からそれぞれを音響音声学的に特徴づける．一方，通時的な観点から，カドリ語の /-T-/ と /-hT-/ が PAN/PMP の *NT と *T に対応する例を挙げ，カドリ語独自の「刷新」で /-hT-/ が生じたとする先行研究の見解を強める．