本発表では、PF違反の回避現象について議論されている主語位置への移動と、[Spec, CP]への疑問詞移動との間にEPP要請に関する並行性が見られることを指摘し、素性移動を仮定する理論的枠組みにおいてさえも、EPP要請は素性移動のみによってではなく、Spec位置が埋められることによってしか満たされないことを論じる。また、その帰結として英語の主語疑問文においても顕在的wh移動が存在するということが導かれるが、これは「音列に影響を与えないwh移動は存在しない」とする説への反論を成しており、素性移動の枠組みを経験的に支持する議論の一つが成り立たなくなることを論じる。
本発表ではさらに、このようなEPP要請をMergeの適用に深く関与するEdge素性の観点から検討すると、なぜある種の範疇だけがEPP素性をもっているかのように振舞うのか、という問題が残ることを指摘する。