本発表ではLasnik (2001)の観察しているVP削除およびIP削除による非文法性の回避がNP削除においてもみられることを日本語のNP内における敬語化とNP削除に関する新しい経験的事実から示した。具体的には「先輩たちの楽器の取り扱いは丁寧だが、後輩たちの{φは/#楽器のお取り扱いは}粗雑だ」などの例における削除の有無と文法性との相関を取り上げた。
さらに、この事実の分析について、削除を適用するには機能範疇での指定部-主要部一致が必要であるという一般化(Saito & Murasugi 1990)の下では、一致による敬語文の分析(Niinuma 2003, 2005, Ivana & 酒井 2005)は誤った予測をするのに対し、その代案として提案されたTakita (2006)による認可分析では正しく説明できることを示した。