本発表の目的は、「閉鎖音の方が摩擦音よりも無標である」という有標性が構音障害(dysarthria)・発語失行(apraxia of speech)・失語症などのいわゆる言語の喪失過程においても見られるのかどうかを明らかにすることである。
構音障害・発語失行の患者の発音データが記載されている複数の先行研究の調査から、構音障害・発語失行においては閉鎖音の方が摩擦音よりも正しく発音される率が高く(または差がなく)、置換エラー中「摩擦→閉鎖」の置換が起こる率は「閉鎖→摩擦」の置換が起こる率よりも高い(または差がない)ことが明らかとなった。これらの傾向は、患者の母語が日本語であっても英語であっても観察され、構音障害・発語失行においても閉鎖音の方が摩擦音よりも無標である傾向が示された。