日本語場所格交替における意味的制約の階層性

大﨑 梓 (同志社大学)

本発表の目的は,日本語の「{壁にペンキを/壁をペンキで}塗る」のような,いわゆる場所格交替について,岸本(2006)の「構文フレーム維持の仮説」を検討しながら考察することである。問題提起として,ある動詞が交替の構文フレームをとるか否かは,動詞の意味だけでは決定づけられないとする事例を示す。そして具体的主張として,1) 交替成立の可否は,動詞レベルと動詞句レベルそれぞれに課された意味的制約により決定され,2) それらレベルの異なる制約間には階層性が存在することを述べる。その上で,交替の構文フレームの使用は義務的ではなく,あくまでも動詞と動詞句の意味的制約が満たされることが交替成立を決定づけることを主張する。以上の分析を通して本発表は,日本語場所格交替の現象に関しては,動詞もしくは構文のいずれかではなく,副詞や名詞句といった要素の意味役割も豊かに考えるべきであることを論じる。