本発表では,認知言語学の観点から,視聴覚の知覚動詞「見る・聞く,見える・聞こえる」のとる統語構造を観察した。この異同を比べ,身体の構造が言語表現に反映することを示した。すなわち,目は前についており,動かすことで積極的に対象を捉える器官であるのに対し,耳は全方位的で受容的な器官である。これが,言語表現の構造へ制約を与えると結論づけた。
例えば,「東{から/に}山を見た」のカラは見る行為の起点,ニは着点を示すが,「家の中{から/に}爆発音を聞いた」のカラは聞く行為と音の起点,ニは着点をどちらも指示し,解釈が曖昧になる。聴覚は自動詞「家の中から音が聞こえ{た/てきた}」のほうが自然で,ダイクシス表現「テクル」が伴っても状況レベルで相違がない。これは耳が受容的な器官であることを示す。
このように,ニ・カラ格を伴う視聴覚の知覚動詞が表す状況の差異から,知覚器官の構造が言語表現に反映していることを示した。