Saussure effectとは，印欧祖語において母音*oに近接する環境で喉音（*H）が消失するという現象で，*#HRo->*#Ro-，*-oRHC->*-oRC-（#:語境界，R:ソナント，C:子音）と表される。リトアニア語では喉音自体は消失しているが，祖語において喉音を含んでいた*VRHC（V:母音）は下降調アクセントを，喉音の無い*VRCは上昇調アクセントを持つ。この音調の違いを手がかりに*-oRHC-の音連続にSaussure effectが作用したか否かの問題を体系的に扱った研究はない。本発表では，リトアニア語の名詞・形容詞を対象にした包括的な調査に基づいて，Saussure effectの作用の認められる例と，作用が期待されるのに作用の認められない例を示す。後者の例については，Saussure effect の作用後の二次的な形態論的要因による歴史的説明が可能であることを示す。