上ソルブ語の再帰代名詞対格形には,長形 sebje と短形 so という形式がある。両者の使い分けは,前置詞に支配される場合は短形,それ以外の場合はその選択は随意的であるとされているが,実際のコーパスから使用例を抽出してみると,統語的制約(前置詞支配)と意味的要因(部分-全体,再帰的事態の容易性)が関与していることが指摘できる。
長形 sebje の使用頻度は,短形 so に比して圧倒的に少ない。現れる環境も,直接目的語として現れるわずかな例のほかには,いくつかの定型的な表現に偏って現れている。また,前者の場合では,sebje で表される再帰性が代名詞 sam-「自分で,ひとりで」の支えを受けて表現されている例が多い。したがって,長形 sebje の担っている再帰性の意味は,それが音韻的に重い形式であるにもかかわらず,希薄化しつつあると見られる。したがって,単なる sebje – so という対立から,sebje sam- – so という対立へとシフトする途上にあることが推察される。