トカラ語の動詞体系については,比較言語学の立場から様々な議論が出ている。他方,これらの多くが依拠するTocharisches Elementarbuch (1960)の刊行後,主に文献学的な研究において多くの進展が見られた。そこで本発表では,接続法Ⅲ類を形成する語根に焦点を当て,まずその共時的動詞体系の再検討を行った。その結果,「s-を持つ現在~接続法Ⅲ類の基本動詞・中動~過去Ⅲ類~Reduplikationを示す過去分詞」というパターンが極めて優勢であることが判明した。また接続法Ⅲ類には,Ⅰ類の能動が並立することも明らかとなった。
祖語にErgativ-Stativ / intrans. Mediumというカテゴリーを想定すれば,無生物主語が多く,動作の結果の状態を表す自動詞であり,また接辞的な*-o-を持つ接続法Ⅲ類は,それを良く反映するものと考えられる。