漢語平江方言の3人称

張 盛開(東京外国語大学・院)

漢語平江方言の3人称には,“渠(哩)”(以下渠系)と“他(哩)”(以下他系)がある。一般に,渠系と他系は指示される第3者が現場にいるかどうかによって使い分けられているとされている。本発表は平江方言の標準語である城関方言の口語コーパスの用例と発表者の調査を通して,この2つの3人称の使い分けを考察する。

考察結果では,渠系は現場にいなくても使用されている。逆に,他系は現場にいる指示対象に用いる。新しい第三者を導入する時は他系を,そのあと別の第三者が現れる場合は渠系を用いる。また,物語では同じ第三者でも,導入の時は他系を,導入が済んだ後は渠系を用いる。上述の理由から,両者は旧情報と新情報の違いによって,使い分けていると結論付けた。また,会話で同じ指示対象に渠系と他系の交替使用が見られる。その切り替えの理由は他系→渠系の場合は,旧情報となるためで,渠系→他系の場合は焦点を当てているからだと考えられる。