I think p.を否定する場合,I think ∼p.とI don't think p.の二通りが可能である。幼児の発話においては,processing complexityの観点から,まず,I think ∼p.が出現し,その後にI don't think p.が出現することが予測されるが,CHILDESデータベースを詳細に分析すると,幼児によっては,上記の出現順序に従わないケースが見られる。
本発表では,I don't think p.に対する高頻度の遭遇を主因とする当該表現のentrenchment(定着)が,幼児がI think p.の使用例(I thinkはpを緩和的に主張するためのepistemic marker)を過剰に一般化(幼児はI think ∼p.を,∼pを緩和的に主張するための表現として用いるが,大人は同表現を,∼pを確信的に主張するための表現として用いる)する前に生じるか,あるいは,した後に生じるかによって,上記2つの表現の習得(出現)順序に差異が生じることを主張する。