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補助動詞「おく」の非意志的用法の3構文―地理上の分布と文法体系内でのつながり―

山部 順治

本発表では,補助動詞「おく」の非意志的用法(いずれも非標準語的)のうち,(1)~(3)のような非情物主語の3構文を扱う。(1)と(2)は「おく」の補部の事態を望ましいものとして提示する文で,うち,(1)では「おく」の補部が肯定,(2)では否定である。(3)は,逆接の文である。

  1. 明日の朝は熱が下がっとけばいいけど。‘熱が下がってれば’
  2. 雨がひどくならんとけばいいが。‘雨がひどくならなきゃ’
  3. あんな事故が起こっておきながら対策を講じない。‘起こっていながら’
これら3構文は,インターネット上での使用例によれば,全国的な地理的分布が相違する。(1)は,兵庫県から九州にわたる西日本域に偏っている。(2)は,九州北部と北陸に限られる。(3)は,全国に散らばっている。この状況は,3構文が,(単に,同一語「おく」が3種文脈で派生的に生じさせる現象ではなく,)各々かたまり表現として独立の地位をしめることを示す。また,3構文間の(一定の)独立性は,3者が,補部に状態述語をとりうる容易さで相違することにも見られる。

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