本発表では,岩手県遠野方言において,「あいつは元気ダベ/コッタ[だろう]」のような二種類の形式の異同を明らかにし,推量・意志表現の体系の素描を試みる。
両形式は,形態的・統語的には,(1)終止形接続,(2)形態変化がない,(3)従属度の低い節のみに生起,という終助詞に近い特徴を持つ。
用法的には,「ベ」は〈推量〉以外に,〈疑い〉〈確認要求〉や〈意志〉〈勧誘〉も表すが,「コッタ」は〈推量〉しか表さない。ここから,「ベ」が判断形成過程を表すのに対し,「コッタ」は既に形成された判断を表すと考えられる。
「コッタ」が,この既成の判断として「話し手の個人的な認識」を表し,事実をそのまま伝えることにならず,〈推量〉を表す(「と思う」と同様)とすることで,本来的な推量表現「ベ」との意味的な違いが説明される。
さらに,「コトダ」に由来する「コッタ」と他の東北諸方言,韓国語の文末形式の対照から,形式名詞の文法化に対する有益な知見が得られる可能性を示す。