本発表では,副詞としての「普通に」の用法が明治期後半以降,現在に至るまでに,どのように変化してきたかを観察し,その変化の方向性を考察する。観察の結果,「普通に」は概ね,(1)物事や行為の広がりを示す(動き様態の副詞),(2)行為の実現のされ方が一般的に通じるものであることを示す(動き様態の副詞),(3)述語で表される事柄が一般的なものであることを示す,(4)主体の態度や精神状態が通常と変わらない様子であることを示す(主体めあての副詞),(5)後続文についての話者の注釈を示す(発言の副詞)という順に用法を広げてきたことがわかった。日本語の文は,概略,[[[[[[格-動詞]ヴォイス]アスペクト]肯否]テンス]モダリティ]という階層を持つが,(1),(2)はヴォイスより内側の層で,(3),(4)はヴォイスの層で,(5)はモダリティの層で機能する。このことから,「普通に」は内側から外側へ,即ち,より話者の主観を表す方向へ広がってきたということができる。