カドリ語における重複的構造

稲垣 和也

内容ボルネオ島南部で話されるオーストロネシア諸語の一つであるカドリ語の重複的構造の記述を基に,(i) 重複語を特定する方法,(ii) 重複語の語類,(iii) 重複の機能に関して提案をおこなう。全体として,(i),(ii),(iii) の議論には重複と繰返しの峻別が土台となることを主張する。(i) カドリ語における重複的構造を音韻論的に (重複の) 韻律語,(繰返しの) 音韻句,抑揚句の三つのに分け,重複語を特定する方法を提示する。(ii) 重複語の特性については品詞・語類の観点からの考察が必要だと考えられているが,このように考察することが困難な事例を提出する。(iii) カドリ語の重複語 (韻律語) には意味の慣習化した語があるが,繰返し (音韻句)にはそれがない。重複的構造の意味・機能を概観し,その意味の慣習化は音韻論的構造に依拠して起こっていると結論づける。