シダーマ(シダモ)語の格のシステム

河内 一博

有標主格言語(marked-nominative language)は,他動詞の主語と自動詞の主語を同様に扱うという対格型の言語の特徴を示し,対格の形式が機能的に無標で引用に使われるという点で能格型の言語のようであるので,典型的な対格型と能格型の間の格のシステムの通時的発展の過程にあると言われる(Dixon 1994)。Christa König (2006) は,他のクシ語族の言語と共に,エチオピア中南部で話されているSidaama(Sidamo)語を有標主格言語とみなしているが,これは正しくない。Sidaama語では,男性名詞の主格の形式は接尾辞で標示され,機能的に有標で引用には使われないので,この言語は一見有標主格言語のように見える。しかし,どの名詞の対格の形式も高いピッチの suprafix で標示され,機能的に有標で引用に使われない。更に女性名詞の主格の形式は,典型的な対格型の言語におけるように,形態的標示がゼロで,機能的に無標で引用に使われる。従って,有標主格言語である他のクシ語族の言語より,Sidaama語は典型的な対格型の言語に近い。