認知意味論的な観点から反義性について考察する。関連する諸研究(Croft & Cruse 2004, 荻野・野口 1996など)を吟味しながら,以下の点を主張する。1)反義性には典型性があり,反義語らしさの程度が認められる。2)その程度は,反義性と結びつく概念的対立を,各単語ペアがどれくらい明確に含んでいるかによる。その概念的対立には,a)方向性の対立,b)「肯定的/否定的」の極性の対立の二つがある。これらの点を示すために,56名の大学生・大学院生を被験者とする実験結果を報告する。日本語の138の単語ペアに関し,「どれぐらい反対語だと感じられるか」を5段階のスケールで判断してもらった結果,単語ペア間に大きな評価のばらつきが見られた。高い評価を得たのは,方向の対立か肯定的/否定的の極性が明確なペアであり,このどちらもない語は,たとえ二項対立をなしても反義性評価の程度が低い。