状態動詞と形容詞の意味構造の違い

松井 夏津紀

タイ語と英語の状態を表す語の意味構造を語彙概念構造と項構造の観点から分析する。タイ語は,形態的には動詞と形容詞の分類ができないが,意味構造では両者に差異が見られる。タイ語の状態動詞は,(i)変化事象は表さず結果状態のみを表す「本来的状態動詞」と,(ii)状態変化後の状態を表す「起動状態動詞」に分類される。タイ語本来的状態動詞や英語状態動詞は,項構造に "Event argument" を持たないが,状態変化前の状態から状態変化後の結果状態への移行というeventivityが語彙的に必ず示唆され,この点が形容詞との差異となる。一方,タイ語起動状態動詞は,Event argumentを持っているが,使役事象読みから結果事象読みに交替する場合,語彙概念構造でのeventivityは抑制される。状態を表す語の語彙カテゴリーは,語彙概念構造でのeventivityの有無と係わっていると考える。