日本語に於ける動詞句削除の欠如とその帰結に関する覚書き
星 浩司
日本語に何故「真正動詞句削除」と「擬似動詞句削除」という動詞句削除パターンが共に欠如しているのかという根本的な問いとそれに対する解答は,今まで,先行研究の中では扱われてこなかった。本発表では,音韻部門に於ける削除操作と動詞屈折形態論に関して,新見解を提示し,この根本的な問いに対し,極小主義の立場から原理的な説明を与え,その理論的含意を明らかにする。具体的には,Otani and Whitman (1991)の日本語の擬似動詞句削除分析に対するHoji (1998)の反論の妥当性を維持しつつ,Otani and Whitman (1991)の主張通り,日本語にも顕在的動詞移動の存在を措定することにより,当該問題に対する原理的な解答が可能になると論じる。更に,日本語に関する分析を比較統語論の理論の中に位置付け,動詞句削除の類型論的パターンの相違も説明できる可能性があることを示す。