否定辞が重なって論理的には一つの否定を表す重複現象(negative spread/doubling, van der Wouden 1997等)は,仏語,伊語,非標準英語等で起こることが知られている(例:‘Nobody said nothing。’)。日本語にも「誰も何も食べない」のような表現があり,二つの否定極性項目(NPI)によって「誰も何かを食べない」という意味解釈がもたらされる。否定重複を起こしやすい数量詞は,存在量化子の否定に対応するanti-additive関数であることが指摘されているが,日本語においても「誰も全ては食べない」「*全員は何も食べない」のように,一つ目の数量詞はanti-additiveである。本発表では,日本語の否定限定詞(negative determiner)の構成を分析することにより,日本語において否定限定詞の多重生起を導く要因が,文否定辞を用いた否定の共有にあることを示す。そしてanti-additive限定詞が否定重複のための環境となる理由を,多重環境においてanti-additive関数が持つ論理的特性から説明する。