企画・司会:龍城 正明
形容詞は,名詞に近いものと動詞に近いものという2つの機能があると言われる。英語では,修飾語として属性を具現する機能(名詞的)が主であるが,日本語では属性を具現する修飾機能に加え,それ自体で属性を具現するという動詞的な機能がある。このような自動詞的述語機能は日本語に限らず,サモア語,ケチュア語,アカン語など世界の多くの言語に見られる現象として知られている。
本ワークショップでは,最近分析が進んでいる形容詞の自動詞的述語機能に注目し,言語類型論の立場から,動詞型形容詞と名詞型形容詞とを比較対照することにより,形容詞の性質を考察していく。基礎となる枠組みはHallidayが提唱する選択体系機能言語学(SFL)であるが,特に日本語の形容詞分析に関しては,SFL理論を個別言語に応用した記述文法としてのthe Kyoto Grammarの枠組みを用いて分析することとする。
日本語の形容動詞は形容詞としての特性を有していることが,先行研究において明らかにされており,さらに,分析の細部は異なるものの,形容動詞も含めた日本語の形容詞には,時制形態素のみならず,copulaが伴っているという知見も得られている。このような形態・統語特性ゆえに,日本語の形容詞は,英語のそれとは異なった振る舞いをしていると考えられている。例えば,英語の形容詞がintersective / non-intersectiveを許容するのに対し,日本語の形容詞はintersectiveしか許容しないのは,日本語の形容詞の形態・統語特性に起因するということが論じられてきた。これらの分析を通して,本発表では,日英語の形容詞の形態・統語特性の観点から分析し,生成理論において得られた形容詞に関する知見が,機能主義の言語分析にもいかに貢献できるかについて論じていきたい。
日本語の形容詞は,性質や状態を表すカテゴリとして分析されることが多い。しかし,SFLの枠組みによる日本語文法である,the Kyoto Grammarでは,形容詞自体が述語機能を担うと分析し,さらに,性質や状態という静的な意味に限らず,動的な意味をも表す機能があると分析している。本発表では,形容詞が表す内容を「意味化」して分析し,「悲しい」のような感情を表す形容詞が,「この本は悲しい」と「私は悲しい」の違いのように,使われるコンテクストによって,状態を表す静的意味にも心理的動きを表す動的意味にも用いられることを示す。そして,表現は同じでも異なる意味を具現することができるという日本語の形容詞が持つ特質を明らかにする。このことから,日本語形容詞の動的,静的という意味化が必要であることを示す。
英語の形容詞表現には主語と形容詞を接続させるためのbe動詞が必ず要求され,同時に時制を統御するため助動詞的機能も担うために,述語表現は「主語+be+形容詞句」の3要素から構成される。このため英語では3要素が独立した要素として扱われている。したがって,形容詞自体が述語機能を担うと分析するthe Kyoto Grammarを英語に適用するには,英語の形容詞においても名詞の修飾機能と文の述語機能の二つを想定し,後者には潜在的に「be+形容詞」としての統語機能を提案することにより新しい分析を試みる。さらに,この潜在的なbeには時制を担う助動詞的機能と主語との接合を担う連辞機能があり,文構成の統語レベルではその二つの機能が融合して具現化されると考えられる。この視点より本発表では日英語のcopulaについて共通基盤を設定し,英語教育への応用にも効果が望まれる点を考察する。