概念メタファー理論は,日本語では「流れる」等の液体表現が多様な抽象概念を表す傾向が高いと主張している (Nomura 1996等)。しかし,概念メタファー理論の立場では,「そよ風が部屋に{流れ込んだ/*流入した}」という例で,「流れ込んだ」と「流入した」が共に,「「風」(<移動物>)が「部屋」(<容器>)に<入り込む>」という,同じ概念を表すが,それぞれの動詞で容認度が異なっていることについて説明出来ない。本研究では,「流れ」を含み,経路を表す複合動詞について調査を行い,1) 同じ概念を表す表現でも,どのような意味に拡張されるかは語毎に異なり,2) この問題の解決には複数のメタファーを合成する考え方よりも,個々の語の語彙的制約を基に分析・記述を行う方が妥当であると主張する。