サハ語(ヤクート語)の二重格構文

江畑 冬生

二重格構文とは,同一の格形を持つ名詞句が二つ現れる構文を指す。サハ語の二重格構文は表面的には二つの名詞句から成り立っているように見える。しかし,二つの名詞句の順序を入れ替えることが不可能でありかつ両者の間に要素の挿入を許さないことから,二つの名詞句が統語上は一つの単位として振る舞うと見なせる。意味的側面に注目すると,二重格構文に現れる二つの名詞句が同一指示的なものと,そうでないものとの二種類がある。

同一指示的:
二つの名詞句の表す内容は同じ。後の名詞句には固有名詞が現れやすい。
非同一指示的:
前の名詞句には比較的広い範囲を表す表現が,後の名詞句にはより具体的・詳細な内容が現れる。
このうち後者は,所有構造から派生した所有者繰上げ構文であるという分析も考えられる。だが,サハ語の非同一指示的な構文はトコロ性のある名詞句にのみ用いられ,かつ格の用法が場所的なものに限られることがデータから判明した。