本研究では,文理解という複雑な認知処理が,どのような下位処理からなるのかについて,実際の人間の脳内における活動を調べることにより検証する。特に実際の文理解では,理解された単語情報の短期的な保持を行いつつ,その保持された情報を使って文全体の情報を組み立てていると考えられる。よって本研究では,20人の日本語母語話者に,文理解,単語理解,短期記憶情報の操作処理,短期記憶保持,の4つの課題中のfMRIデータを撮像した。その結果,単語情報を文に組み立てる処理に特有の神経基盤は見つからず,文理解処理は単語理解及びその情報の短期保持(左半球の下前頭回と後部中側頭回)と,その保持された情報の操作処理(左半球の背外側前頭前野)という2つの下位処理を支える神経基盤からなるという結果になった。これらの結果より我々は,人間の文理解は類似の高次脳機能であるとされる記憶システムと同じ神経基盤を用いて,単語情報を短期的に保持しながら文構造を組み立てている,という脳内文理解モデルを提案する。