本研究では,人間の文理解において重要な役割を果たしているといわれる作業記憶の観点から,統語処理と処理器の相互作用について明らかにすることを目的とする。そこで,語順が容認性に影響を与えていると考えられ,かつ,統語的に不適格と分析されるタイプのRNR 文に着目した。このような文に対する標準的な統語分析では語順によるコントラストを予測することが困難である。 そこで我々は,統語的な問題だけではなく,実時間処理における作業記憶による問題であると仮定し,入力後の時間経過が容認性に影響を及ぼすという仮説を立てた。 そこで,フレーズごとの提示による心理物理実験により容認性を測定した。その結果,語順が容認性に対し統計的に有意に影響を与えているということが観察され,仮定を支持する結果となった。このことから,実時間処理上において,作業記憶容量上の制限から処理時間経過に伴って依存関係が徐々に減衰すると考えられる。