本発表では知覚の他動詞「見る,聞く,嗅ぐ」と自動詞「見える,聞こえる,*嗅げる」の他動性とアスペクトを観察し,意味拡張と感覚モダリティ(視覚・聴覚・嗅覚)の身体性の観点から考察した。
結果として知覚の他動詞は,知覚の成立を表す到達相があれば自動詞と対応し,継続相は自動詞に対応しないことを示した。例えば「部屋を見た」では「見た」は継続・到達相が共に解釈できるが「部屋を異常だと見た」は知覚の成立を表す到達相のみで,「部屋が{φ/異常に}見えた」は到達相のみをとる。「嗅ぐ」は知覚の成立を意味しない継続相だけで自動詞と対応しない。一方で「聞く/聞こえる」はどちらも到達相しかないため「聞いたけど聞こえなかった」は容認されない。
更にこれらアスペクトに対応し意味拡張が異なることを示し,これらが目は動かすことで刺激を捉え,音は意図的に選択できず,「嗅ぐ」対象は臭いでなく物体といった身体性の反映だと考察した。