現代日本語の「しか」についての文献内の意味分析はその主要な真理条件である例外性は記述するが十分厳密ではないと思われる。本稿では「しか」の意味特性を厳密に観察し,より詳細な意味定義を提案する。この意味定義は例外性の他,例外を含む領域の存在,複数性条件の存在を含む。一方,形式意味分析そのものからは「しか」が否定と共起する論理的必然性が出て来ない事から,語用論的領域へ視界を広げる。語用的分析として,「しか」の語用的機能は話者の想定命題の否定である事,これが否定辞の存在を要求する事,発話命題と想定命題は一定関係にある事を主張する。また,「しか」は否定述語,二重否定述語,そして否定対象の摘出が容易な肯定述語とは共起が可能な一方,通常の肯定述語は否定対象の摘出が困難な事実が,その解釈困難性または不可能性を導く事を主張する。