オリヤ語における,二重他動詞構文と,他動詞の使役構文

山部 順治

本発表は,オリヤ語の,次のような形の文を取り上げる。
  [使役主] [被使役者-目的格(ku)] [対象物] [他動詞語根-使役接辞(aa)-語尾].
 この形式に対して二つの構文があり,それらは二重他動詞構文(以下,A)と他動詞の使役構文(以下,B)だ,と論ずる。いくつかの他動詞語根には両構文とも適用できる。両構文の主な相違は,Aが(「与える」の文に似ていて)単一の述語からなり,Bが二つの述語からなることである。この構造上の相違の反映として,次の(i)-(v)の点で対照的ふるまいが観察される。(i) 受動文は,Aからは作れるが,Bからは作れない。(ii) 被使役者と対象物の語順入れ替えは,AのほうがBより容易。(iii) 他動詞語根の動作の実現が含意されずに済むこと,および,(iv) 被使役者が「自分」であることは,Aでは(散発的に)可能だが,Bでは不可能である。(v) 他動詞語根の動作の様態を修飾するのは,Aでは全くだめだが,Bでは幾分か可能である。