Sidaama(Sidamo)語の“目的語”人称接尾辞によって表される文法関係

河内 一博

名詞句と動詞のそれぞれへの目的語の標示の配列のパターンに関する二重他動構文の類型的研究(例:Siewierska 2004,Haspelmath 2005)は言語間の個々の文法関係の類似性を前提とする傾向があり,アフリカの言語はどれも文法関係に関して問題はないと言われる(例:Creissels 2005)が,Sidaama語(エチオピア中南部,クシ語族)の“目的語”人称接尾辞が表すのは,いわゆる目的語とは違い,この言語に独特の文法関係である。この接尾辞が表すのは,第一目的語であるように見えるが,実は,イベントによって影響を受ける人間である。まず,二重他動構文のthemeとrecipientが両方とも人間である場合は,文脈によってイベントにより多く影響を受ける人物を表せるし,与格の名詞句が指す人物(例:受益者または原因となる人物,external possessor構文の所有者)がイベントに影響を受けることを表すこともある。さらに,話者がその影響に対しての何らかの態度(例:同情,他人の不幸に対する喜び)を示すのに使われることが多い。