第136回大会:「危機言語」ワークショップ

関係節の類型論:フィールドから見えてくる言語の多様性 Part 3

企画 「危機言語」小委員会
司会 呉人 惠

関係節の類型論的研究は,英語のような限られたタイプの言語を対象とした従来の狭い分析の枠を取り払い,より広範な諸言語のデータに照らして多様なタイプを洗い出すことによって,普遍的な統語理論の構築を目指してきた。関係節化される位置の標示方法,主要部名詞(以下,主要部)と制限節の位置関係,関係節における動詞の形式,接近可能性階層など,様々な切り口の検討と統合による一般化の試みは,関係節の理論研究に大きな飛躍をもたらしたといえる。

とはいえ,研究の蓄積のある大言語については,当該言語の統語的,意味的特質との相関性というより踏み込んだコンテキストの中で関係節を捉え直す挑戦が進行中であるし,研究の蓄積のない危機言語については,一般化に再検討をせまるデータがフィールドワークによって今なお地道に掘り起されている。

本発表では,この2方向で進んでいる研究がそれぞれの成果を共有し,関係節のより普遍的な理論化への可能性を模索する試みをおこなう。具体的には,最も身近な日本語の従来の関係節研究を統語的・意味的側面から再検討するとともに,そこで洗い出された問題点を危機言語の関係節のデータとすり合わせることにより,関係節を統語と意味の側面から総合的かつ通言語的に捉えていく。