本発表では,(1)「のだ」文は複文構造を成す,(2)そのような構造は分裂文の一種として派生される,という2点を主張する。まず「のだ」文の「だ」の性質や否定極性の同一節条件の振る舞いから,「のだ」文が埋め込み節を持つことを見る。ところが仮定される構造では主節の動詞「だ」がその指定部に主格主語を持たない。この問題を回避するために,「のだ」文は分裂文の特殊形であると提案する。すなわち,分裂文(Kizu 2005参照)の前提節内でFinPが空演算子となり,これに対応するFinPが焦点句位置に現れた文が「のだ」文なのである。このとき「のだ」文の主節主語位置には音形の無い前提節が生ずる。この分析のもとでは,分裂文と「のだ」文がともに前提のある文脈で使われるという共通点が捉えられる。また,分裂文と「のだ」文は焦点句位置にある否定極性項目の認可の可否で相違を見せるが,このことも本発表の分析では予測できる。