古サルデーニャ語ではラテン語の完了形の形成法を受け継いでいる動詞に加えて,形成法に移行が見られる動詞が存在する。本発表では完了形の形成法の移行パターンを分類した上で,それぞれの移行が生じた要因及びその背景について考察を加える。考察の結果,母音交替完了と重複完了は失われ,s完了及びu完了にとって代わられる傾向にあることを示す。この事実はs完了とu完了は完了形を顕著に特徴付ける機能を持っていた一方,母音交替完了及び重複完了は完了形を標示する機能を失いつつあったことを示唆するものである。また,古サルデーニャ語の第2変化動詞は強変化タイプの完了形を持つという一般的傾向に従って,弱変化タイプを持っていた第2変化動詞において強変化タイプへの移行が観察されることを示す。一方強変化タイプから弱変化タイプへの移行については,弱変化タイプの数的優位性に伴う類推によるものと主張する。