日本語の外来語アクセントに対する構文文法的アプローチ
―「オセアニア」と「パラノイア」のアクセントからの傍証―

儀利古 幹雄,森下 祐三

佐藤(1989)は,語末に/-ia/という「外来語形態素」を有する外来語は,Kubozono (1996) で述べられている外来語における平板型アクセント生起条件を満たしていなくとも平板型で発音されると主張している(e.g. カリフォルニア)。しかし,語末に/-ia/を有する外来語の全てが平板型で発音されるわけではない(e.g. パラノ’イア)。
このような事実を背景に,本研究では,日本語母語話者に対する実在語と無意味語を用いた発話実験と知覚実験を通して,語末に/-ia/を有する外来語の中でも平板型で発音されるのは<地域>という意味範疇に属する語のみであることを主張するとともに,語のアクセントは意味情報のみに基づいて異なりうること,また意味の判断はアクセント情報のみに基づいて異なりうることを示す。またこのような現象は,語末に/-ia/を含み平板型で発音されるという「形式」と,地域という「意味」とのペアの存在に起因するという,Goldberg (1995) に代表される構文文法(Construction Grammar)の枠組みに基づいた分析を展開する。