山口方言の撥音と長音を含む語の産出におけるアクセント核の有無と発音持続時間に関する世代間比較

池田 史子,玉岡 賀津雄,林 炫情

山口方言は,特殊拍がアクセント核を保つことができるモーラ方言であると言われてきた(上野1984)。本研究では,山口県内にのみ居住歴を持つ若年層16名(平均20歳1カ月)と老年層16名(平均69歳10カ月)の撥音と長音を含む語(各15語)の産出において,撥音と長音にアクセント核を置く頻度とその発音持続時間を調べた。その結果,若年層ではアクセント核が同一シラブル内のひとつ前のモーラへ移動し,撥音と長音にアクセント核を置く発音が,老年層に比べて大幅に減少していた。同一単語および同一シラブル内に占める撥音の発音持続時間の比率は,老年層の方が若年層よりも有意に高かった。長音については,長音にアクセント核を置く頻度は老年層が若年層よりも有意に多いにもかかわらず,同一単語および同一シラブル内に占める長音の発音持続時間の比率には,両世代間で有意な差はなかった。同じ山口方言話者でも世代間で大きな違いがあることを示した。