アナトリア祖語の時期に,アクセントのある長母音の後,およびアクセントのない母音間で子音が弱化したことはよく知られている。この2つの子音弱化規則は,アクセントのある長母音をはじめのモーラにアクセントのある2モーラ連続と再解釈すれば,直前のモーラに内在する[-stiff vocal folds]という素性がつぎの子音に広がる順行同化というように,ひとつに一般化することができる。
また同じくアナトリア祖語の時期に生じた語末の-rの消失についても,直前のモーラが[-stiff vocal folds]という素性によって特徴づけられる場合に-rが消失したと考えれば,ヒッタイト語zinnattari 'is finished' に代表される鼻音接中辞を持つ形式が無理なく説明できる( → > → zinnattari)。
以上の2つの独立した根拠から,アナトリア祖語においてアクセントを担う基本的な単位はモーラであったと考えることができる。