ツングース祖語における接近音について

風間 伸次郎

現在のツングース諸語には,基本的にどの言語にも/w/, /j/, /r/が存在する。したがって先行研究では祖語の音韻体系にこれらの音素を認めている。しかしこれらの接近音,特にw,jでは,確実に祖語に溯るような対応例が非常に少ない。祖語に仮定できる語中の子音連続の構成要素となることもない。音変化(*b>w/V_V)や,借用をつうじて成立したものも多くある。次に,rとdは相補的な分布を示すので,rも母音間での/d/の弱化により生じた可能性がある。祖語に溯る動詞語尾の中には,この条件でd/rの交替を示すものがある。*rt, *rdが例証されないこともこの仮説を支持する。したがって,これらの3つの接近音音素が祖語に存在しなかった可能性も考えられる。本発表ではこの仮説を検討した。具体的には,ナーナイ語の辞書コーパスを中心に,現在これらの接近音を持つ語を確定し,その来源について詳しく検討した。